がんと闘うとき、髪が支えてくれたこと
忘れられない撮影があります。
53歳の女性でした。テニスをやっていらっしゃるそうで、こんがりと日焼した肌。サイドを潔く刈り上げをしたベリーショートがとてもお似合いでした。
そのサロンには、かれこれ20年も通っているとおっしゃっていて、「そういえば、娘の七五三で連れてきた時、男の子と間違われて短く切られちゃったんだよねー。あのときはすごくびっくりしたけれど、今思えば、いい笑い話だわー」と、周囲を笑わせます。
こちらまで元気になるような和気あいあいの撮影が終了したあと。
2ヶ月ほどたったときだったでしょうか。担当の美容師さんから、彼女が病気を再発して、抗がん剤治療に入ることを聞かされました。
そのとき、彼女からもらったメッセージは、一生忘れられません。
「また治療で髪は抜けてしまうけれど、あんなふうに素敵な髪で撮影できて本当に良かった。治療が終わって髪がそろったら、また絶対撮影会に来るから撮ってね」と。
スタッフ一同、その言葉に涙し、治療の成功を心から祈りました。
そして、ときどき彼女のことを思い出しては「あの写真、飾ってくれているかな。いまごろ、どんな治療をされているのかな……」と考えていました。
「必ず戻ってきてくださいね。そのときはまた撮影させてくださいとお伝えください」。そう、担当美容師さんにお願いしました。
先日、その後の話を聞きました。
抗がん剤の治療が進むなか、少しずつ抜ける髪に対して、2週間ごとにサロンにお見えになり、短くなっていく過程のヘアチェンジも楽しまれたそう。
そして、今では、ほぼ寛解して、元気にまたサロンにお見えだとのこと。
私の話が誰かの力になるのであれば、と、この話の掲載をご許可くださいました。
この素敵なヘアスタイルの写真を心の支えに、闘病してくださったそうです。
髪はときに、生きる希望にもなる。
本当に自分が気に入っているヘアスタイルがあって、何がなんでももう一度そこに戻ってくるという想いは、薬とはまた違った見えない力を与えてくれたのではないかと思ったのです。
美容師さんという職業は、そのお客様の人生のドラマに重要人物として登場し、お客様の生に力を与える。
そして美容師さんのハサミの力が、ときに、お医者さんのメスと同じように、人の命を支えることがあるということを教えてもらったのでした。
【この記事もオススメ】
「がん闘病中の髪・肌・爪の悩み サポートブック」発売しました
英治出版 (2015-04-02)
抗がん剤治療をされているお知り合いの方がいらしたら、ぜひご紹介ください。