世の中そんなに変わらない。『格闘するものに◯』(三浦しをん)_036
ある小説家の方の本を読んで、面白いなぁと思うことがたくさんあるけれど、この人の他の作品も読んでみようと思うまでになるかというと、そこには深い川が流れていて、なかなか2冊めに手がのびることは多くなかったりします。
三浦しをんさんは、昨年「風が強く吹いている」が初めてで、他の本も読んでみたいと思った作家さんでした。
というのも、この方の小説の素材の集め方が気になったからです。
「舟を編む」を先に購入していたのですが、ある人に「格闘する者たちに⚪︎」がいいよと言われて先にこちらを読んでみることにしました。こちらが24歳の時に書かれたデビュー作だそうです。
この本は、三浦さん自身の就職活動の経験をもとに書かれているらしく、私は三浦さんと同い年なので、ひょっとしたらどこかの出版社の試験会場でご一緒していたのかもしれないなあと、思いながら、そうだった、そうだった、こんな感じだったって気分になりました。
人の価値観が大きく動くときは
家族が死んだとき
子供が生まれたとき
転職(就職)を考えるとき
だと聞いたことがあります。
この3つめの題材における心のゆるやかな微動を、日常のなかでしとしとと書くことができるのって、一番難しいことだなあと感じます。
ご自身は、こういうものを書きたかったわけではないと後にコメントされているので、ひょっとしたらご本人にとっては不本意なデビュー作なのかもしれませんが、通底する、品の良さみたいなものは、どんなに若い時代に書かれたものでも変わらないのだなあと感じます。
つぎ、舟を編む、いきます。
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