愛は映るのだ。『映画を撮りながら考えたこと』(是枝裕和)_028
誰かによって人生をがらっと変えられた経験があるとしたら、是枝さんです。私の人生はBK(Before Koreeda)とAK(After Koreeda)に二分されます。
私が就職活動した年は、是枝さんがテレビマンユニオンの採用委員長で、是枝さんがそのときに伝えてくれた言葉の数々は、映像の世界の話ではあったけれども、原稿を書くときにも通じる話が多く、今でも仕事をするときの指針になっています。
・客観的事実というものは世の中に存在しないということ
・ものごとは常に、誰かの視点で見たものごとであるということ
・対象をどう見つめたいかという自分の視座を意識すること
・映像は「言語」である。文法を学ばなくては撮れないということ
そんなことを、是枝さんから学びました。
そんな是枝さんの、仕事への考え方が一冊に集約された本。
テレビマンユニオンを辞めてからの17年の間に、物理的な現場に立ちあって、いろいろ考えてたり、納得したりしてきたことの答え合わせを読むような気持ちで、2018年仕事はじめから、読みました。
本は付箋だらけになった。中も、書き込みだらけになりました。幸せな時間だった。ちなみに、本にそのとき考えたことを書き込みをするのも、是枝さんの影響です。大学生のときに是枝さんから借りた本が、書き込みだらけだったのを見て以来。
是枝さんが言っていた言葉で、ひとつ、今になってよくわかる言葉があります。
「よく学生に『どうして映画を(ドキュメンタリーを)撮るんですか?』って聞かれるんだけれど、あの質問にこたえるの、難しいよね。日々の自分の仕事で悩んだり考えたりしていることって、もっと細かくて実際的なことばかりだから」
私は、そういった質問をしている側の学生だったけれど、そういう本質的なことって実は、「もっと細かくて実際的なこと」を吟味して取捨選択する積み重ねの先にあるのだということが最近わかってきました。
この本のなかにも「テーマはディティールを詰めるなかで生まれる」といった一文があります。
まさに、ディティールをああでもないこうでもない、あれを捨ててこれを残して、としているときに、ふいに、本質が浮かび上がってくることがある。それは、とても楽しい作業です。ということがわかるようになるのに、うっかり17年もかかりました。
20代当時、私は、是枝さんが話している言葉を、日本語としては理解できていたけれど、その意味は解釈できていなかったように感じます。
それが、今回読んだこの本では、とてもスムーズに理解できたし、是枝さんの文章について脳内で議論することもできた。それはきっと、是枝さんがいうような、日々の細くて実際的なことに、いちいち取り組んだ17年があったからなのかもしれないと思いました。
フィクションとノンフィクションを行き来することに関しては、大学の卒論で研究して以来、ずっとライフテーマなのだけれど、曲りなりにも、昨年、ノンフィクションを1冊書かせていただいたことで、この関係性に対してすこし視界が広がったようにも思います。この本を読んで、さらに、いろいろ考えた。考えたこと自体を、今年は本にできたらいいなと思います。
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