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19歳のときにかけられた、呪い、もしくは、救い。

大学時代、児童相談所にくる小学生や中学生の話し相手になるバイトをしたことがあります。
東京都が定める講義を聞いて、採用試験を受けても依頼されるまでにいくつもハードルのあるバイトで、私以外の大学生は、ほぼ全員、心理学科の学生さんだった。
私は墨田区の児童相談所に通っていたんだけれど、私の大学時代は、地下鉄サリン事件があった頃で、児童相談所には信者のお子さんが何人もいたように記憶しています。

児童相談所で子どもたちに接するときは、専門のカウンセラーさんの指導の元で、接していました。大抵は、精神科医や心療内科医を引退した先生が多かった。
で、私、その児童相談所で、ある元精神科医のおじいちゃん先生に、とても熱心にスカウトされたんですよね。
「今からでも遅くないから、国文科をやめて医学部か心理学部に入り直して、精神科医かカウンセラーになったほうがいい」って。

 

その先生は、こんなことを言っていました。

 

「ほとんどの人間は、心に小さな風船を抱えて生きているんです。だいたいの人は、その風船を一生つつかれないまま死んでいくので、心を病むことはないんだけれど、ときどき、その風船に触れられてしまった人は、心の病気になっていくんですよね。
でもごくごくまれに、風船を持たないまま、大人になる人がいるんです。あなたは、私が今までに数人しか出会ったことのない、そのタイプです。どこをどうつつかれても、一生心を病まない人なんです。
これって、オリンピック選手やプロの音楽家と同じように、特殊な才能なんですよ。今からでもいいので、心の病を扱う仕事につきませんか?」

そのときは、ふーん、そんなものなのかなあ。なんだか占いみたいな話だなあと思ったし、まあ普通に国文科を卒業してテレビの仕事に就いたんだけれど、その時、その先生に言われた言葉が、40歳を超える今でも、私の人生に影響を与えていることに、最近気づいた、んですよね。

 

「私は、ぜったいに病まないタイプらしい」と、潜在意識の中で、信じ続けていたなあ、と。

 

今年の下半期は、「心」や「病気」や「生死」を扱う書籍ばかり、担当しています。

 

 

死を扱う書籍のときは、納品するまでに、大切な人を失う瞬間を何度も何度も体験して、その都度泣いて落ちて、夢にまで見て、を繰り返します。

 

そういえば、鈴木三枝子さんの『道を継ぐ』を書いたときも、編集さんと構成の話をする以外、誰とも会話ができない日が何日も続いたりしました。

 

こういう書き方が正統派なのか、どうなのか、わからない。他の人はどうやって書いてるのかも知らない(今度聞いてみよう)。
でも、自分は今のところこういう書き方しかできないし、こういう書き方をしているときに心の支えになっているのは「君は一生心を病まないタイプ」というおじいちゃん先生の言葉だったり、する。ってことを、今日、ふと思い出しました。
救いのようでもあるし、呪いのようでもある。

 

そんなおじいちゃん先生の言葉を、一度書いておこうと思いました。

 

 

道を継ぐ
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